Research

学術研究テーマ
- ジェンダー格差
- 研究開発組織におけるインセンティブ設計
- 働き方と生産性:チーム生産、働き方改革、業務の可視化の効果
- 健康経営:メンタルヘルス・睡眠・禁煙などの施策の効果
- 中間管理職の生産性測定とその決定要因
- 再雇用制度の影響評価
- 異動マッチング改善取組みの生産性効果
- 在宅勤務拡大の影響評価
働き方と生産性:チーム生産、働き方改革
進行中のプロジェクト
業務の可視化とプロセス改善 (加藤隆夫、岡島成治、岡島広子らとの共同研究)
本研究では、企業内部の業務データを用いて業務プロセスの合理化の効果を検証する。
J-Tank社は、業務の棚卸、可視化を通じて、無駄を省き、業務の合理的再配分、自動化などの工夫を通じて、間接部門の生産性を3割近く引き上げたと言われている。今回その合理化努力の過程で生まれた業務データと人事データの提供を受け、業務の棚卸に基づく業務改善の直接的間接的効果の推計を行う。どのくらいのリターンがあり、生産性にどのような経路で影響を与えうるか、取組の中での管理職の役割はどのようなものか、などの疑問に答える。
また、事業所間、拠点間で業務可視化の効果の大きさ、効果の現れ方にどのような違いがあったかについても分析を行うことで、どのような状況下であるいはどういう条件かで効果が出やすいかを理解する。 こうした点を明らかにすることで、人事部中心の働き方改革ではなく、現場が中心となった取組みに対しての指針を提供したい。
ワーキングペーパー
“Enhancing Team Productivity through Shorter Working Hours: Evidence from the Great Recession”, with Ruo Shangguan, Jed DeVaro, RIETI Discussion Paper 21-E-040, May 2021
不況時に生産需要が減少すると、雇用主は労働者や労働時間を削減して労働投入量を減らす。時間-生産性プロファイルが逆U字型であれば、景気後退前の労働時間が過剰であった場合、労働時間の削減によって労働生産性が向上する可能性がある。また、チーム編成で総時間が減少すると、労働力の再配分により、トップパフォーマーに労働時間が集中し、チーム生産性がさらに改善する。この調整プロセスを、建設・設計プロジェクトに関わる日本企業のデータを用いて検証した。まず、チーム内の労働力配分を分析するための理論モデルを提案し、モデルパラメーターを推定し、チーム内の労働力配分を分析した。その結果、2008年から2009年の世界金融危機による労働時間の減少に対応して、(1) チーム全体の生産性は個人の生産性の増加以上に向上し、労働分配率はより集中し、チームサイズは縮小した、(2)生産性向上は、チームが大きいほど、また生産性の低いチームほど大きい、(3) チームが大きくなると、生産性の低い労働者が追加で配置されるため、平均生産性が低下する、ことを示した。
「働き方改革の広がりと実効性」高橋 孝平,有田 賢太郎,風間 春香,児玉 直美,大湾秀雄,酒井 才介,竹内 誠也, RIETI Discussion Paper 21-J-021, April 2021
本稿では、都市銀行の顧客企業を対象に行った独自のアンケート調査に東京商工リサーチデータ、経済産業省企業活動基本調査データを組み合わせて、働き方改革の広がりと、残業時間、離職率、企業業績への効果について検証を行った。働き方改革は2016年以降、大企業のみならず中小企業においても急速に浸透した。各施策の効果評価については、施策導入の内生性によって引き起こされるバイアスの是正が必要であるが、本研究では固定効果モデルとダイナミックパネルデータモデルの2つの推計アプローチを組み合わせることで、内生性バイアスの軽減を図った。結果によると、各種働き方改革が残業時間や離職率に与えた影響は限定的であるが、有給・残業管理施策と柔軟な出退勤施策が残業時間削減につながった可能性が確認できた。ROAや一人当たり売上高でとらえた労働生産性に対する効果は業務選別施策が正の押上効果を持つことが示唆された。働く環境見直し施策が企業によっては生産性の改善につながった可能性も示唆された。くるみん等の認証制度の効果は検出できなかったが、女性が多い第三次産業で、柔軟な出退勤施が残業削減と一人当たり売上増加につながったことは、一部WLB施策の実効可能性を示唆している。
刊行済み論文
「ソフトウエア開発における早期すり合わせの効果と働き方改革への示唆」大湾秀雄、水上祐治,一橋大学経済研究所 『経済研究』,69巻 1-17頁,2018
“How Should Teams Be Formed and Managed?” IZA World of Labor.
“Front-Loading Development and Market Defect Density Reduction by Concurrent Software Development Method in In-vehicle Embedded Software Development Projects,” with Yuji Mizukami and Masayuki Ida, Journal of Japan Society of Directories, Vol. 12, 2014: 22-31.
The Impact of Group Contract and Governance Structure on Performance—Evidence from College Classrooms” with Zeynep Hansen, Jie Pan, and Shinya Sugawara, Journal of Law, Economics, and Organization.30(3): 463-492. 2014.
“Diversity and Productivity in Production Teams” with B. Hamilton, J. Nickerson, Advances in the Economic Analysis of Participatory and Labor-Managed Firms, Volumne 13, 2012: 99-138.
“Are Supply and Plant Inspections Complements or Substitutes? A Strategic and Operational Assessment of Inspection Practices in Biotechnology,” with Kyle Mayer and Jack A. Nickerson, Management Science, Vol. 50, No. 8 (August 2004): 1064-81.
“Team Incentives and Worker Heterogeneity: An Empirical Analysis of the Impact of Teams on Productivity and Participation,” with Barton H. Hamilton and Jack A. Nickerson, Journal of Political Economy, v111, n3, 465-497, June 2003.
組織設計・人事制度設計
ワーキングペーパー
“Biases in Subjective Performance Evaluation” with Daiji Kawaguchi and Kazuteru Takahashi. RIETI Discussion Paper 16-E-059, March 2016.
刊行済み論文
“Multitasking Incentives and the Informativeness of Subjective Performance Evaluation” with Shingo Takahashi, Tsuyoshi Tsuru, and Katsuhito Uehara, Industrial and Labor Relations Review, ILR Review. 2021;74(2):511-543.
“The Role of Design Method and Process Technology in Stable Outsourcing Equilibria” with Jin-Hyuk Kim and Takehiko Komatsu, International Journal of Industrial Organization, Volume 69, March 2020
“Authority, Conformity, and Organizational Learning” with Nobuyuki Hanaki Administrative Sciences, 3(3) 2013:32-52.
人事施策の生産性効果と経営の質
(2021年10月11日〜2024年3月31日)
コロナ禍でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する一方、ジョブ型雇用への移行など雇用制度も大きく変容しつつある。多くの伝統的企業が、職の標準化、人事の分権化、自律的なキャリア形成を軸として人事制度改革を行う必要に迫られている。
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一般的人的資本投資の重要性は高まり、自己研鑽機会の提供、中間管理職のスキル向上への取組み、経営人材の育成、健康経営施策に取り組む企業が増え、リスキリングが経営の最大の課題になるだろう。
雇用制度の変化が企業パフォーマンスにどのような影響を与えるのか、健康投資を含めた人的資本投資の投資リターンはどれほどなのか、経営人材の育成や経営チームの多様性を高める経営努力がどの程度進んでいるのか、といった点を明らかにするのが、本プロジェクトの目的である。また、新たに入手する新規データの活用を進め、労働経済学や行動経済学の理論的な発展に寄与すると共に、目下の政策課題に照らし合わせて、重要な研究課題の発掘と理論実証両面からの探索的研究を行いたい。
具体的には、以下の13つのトピックが柱となる。(1)長時間労働の決定要因、施策効果、キャリア形成との関係、(2)組織内コミュニケーションとイノベーション、(3)働き方や社員の性格特性がメンタルヘルスに与える影響、(4)業務の可視化とプロセス改善、(5)適応、コーディネーションとアウトソーシング、(6)健康経営施策の生産性効果、(7)360度フィードバックにおけるバイアス、(8)人材の外部採用と内部調達、(9)職場における孤⽴ ・孤独リスクとその評価指標の開発、(10)エンゲージメントと生産性、および中間管理職の役割、(11)経営チームの構成と経営メンバーの育成、(12)働き方改革の広がりと実効性、(13)多国籍企業の海外拠点の人材配置とパフォーマンス。
プロジェクト期間: 2021年10月11日 〜 2024年3月31日
(上記プロジェクト期間のうち、研究活動期間は 2021年10月11日 〜 2023年9月30日とし、データ利用報告期間は2023年10月1日 〜 2024年3月31日とする )
人事施策の生産性効果と雇用システムの変容
(2019年7月1日〜2021年6月30日)
人事データなどの企業内業務データ、および企業内でのフィールド実験を活用し、労働経済学や行動経済学の理論的な発展に寄与すると共に、目下の政策課題に照らし合わせて、重要な研究課題の発掘と理論実証両面からの探索的研究を行う。具体的には、以下の13の研究が柱となる。
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- どのような施策や慣習が男女格差を引き起こしているか。
- 対人スキル研修や組織間移動が生産性やイノベーションにどのような影響を与えているか。
- 社員の性格特性がメンタルヘルスにどのような影響を与えているか。
- 業務の可視化を通じたプロセス合理化が生産性にどのような経路でどの程度の影響を与えうるか。
- 中間管理職はどのような経路で生産性に影響を与えるのか。
- 継続雇用制度による高齢社員の配置が本人や同僚にどのような影響を与えているか。
- 禁煙が労働者および同僚の生産性や満足度にどのような影響を与えるか。
- 食事内容の改善や運動の奨励が労働者の健康と生産性にどのような影響を与えるか。
- 酒蔵の人的資本やマネジメントとイノベーション(鑑評会結果)の間にどのような関係があるか。
- (みずほ総合研究所との共同研究)働き方改革の実態調査と実施効果の検証
- 労働時間や勤務時間帯、および上司の行動特性がメンタルヘルスに与える影響
- 社内FA制度など本人の希望に沿った異動の生産性効果
- 多国籍企業における海外拠点の人材配置とパフォーマンスの関係
これらの研究を通じて、経営と生産性格差の違いの関係、男女格差の原因、非認知能力の労働市場における価値、職場内のピア効果について多くの知見を導くと同時に、どのような労働施策を奨励し、政策的なインセンティブを与えるべきかについても議論を進める。
人的資源有効活用のための雇用システム変革
(2017年5月29日〜2019年4月30日)
日本企業の意思決定や雇用の仕組みは、海外のそれらと互換性がなく、企業がグローバル化する上で大きな障害となっていた。グローバル化のさらなる進展により、国内と海外で分断された人材マネジメントを改め、制度の共通化と知識ネットワークの構築を通じた統合の必要性が高まっている。
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他方、働き方改革を求める政府や社会の要請、あるいは採用難もあり、従業員の属性やニーズ、キャリアが多様化している。採用、育成、配置、評価のいずれの面においても、現場の管理職が担うべき範囲が広がってきている。これは人事機能の分権化と呼んでも良い。人事部は権限を現場の管理職に委譲する一方、彼らの意思決定を支援し、組織の健全度をモニターするための情報の収集に一層力を入れることが予想される。
近年、基幹業務システムやグループウェアの機能拡張によって、利用可能な人事データは、加速度的に広がりつつあり、(1)目標管理制度の下での目標や業務配置の情報、(2)多面評価制度の下での部下や同僚による上司の評価、(3)従業員満足度調査による職場環境の情報、(4)SPIやヒューマンアセスメントによる非認知能力情報、といった新しい情報が研究用に提供される機会が現れてきた。AI技術の発展はこの動きを加速するだろう。
こうした新しいデータの活用により、本プロジェクトは、労働経済学や行動経済学における、重要な研究課題の発掘と理論実証両面からの探索的研究を行いたい。さらに、企業とタイアップしながら、実験経済学の知見を取り入れ、人事施策の効果測定等も行いたい。具体的には、研究期間中、男女格差、働き方改革、研修の効果、メンタルヘルス改善、採用市場におけるマッチング、中間管理職の能力評価、組織内イノベーションの7つの研究課題に注力する。
企業内人的資源配分メカニズムの経済分析
ー人事データを用いたインサイダーエコノメトリクス―
(2015年4月6日〜2017年3月31日)
企業の内部労働市場は、評価、訓練、人材の再配置、短期長期両方のインセンティブ供与という多面的な役割を果たしている。本プロジェクトでは、日本企業数社の人事データを用い、
(1)日本企業の内部労働市場がどの程度効率的か、
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(2)労働生産性を上げるための企業サイドのさまざまな施策がどのようなインパクトを及ぼしているか、
(3)制度的要因が人的資源配分や賃金にどのような影響をもたらしているか、
などの問題に取り組む。
その際、特に女性の人的資本の未利用、メンタルヘルスの悪化、採用市場におけるマッチングの非効率性などにつながる問題の発掘、その原因や制度的背景などを明らかにすることを目指す。
企業内人的資源配分メカニズムの経済分析
―人事データを用いたインサイダーエコノメトリクス―
(2013年4月15日〜2015年3月31日)
企業の内部労働市場は、(1)労働者の能力を実際の仕事ぶりに基づき評価し、(2)訓練を通じ人的資本を蓄積し、(3)人的資本の蓄積に応じて人材の再配置を行い、(4)短期長期両方のインセンティブを用いて”やる気”を高めるという多面的な役割を果たしている
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人事システムが効率的かという問いかけは、内部労働市場がそれぞれの役割をどの程度合理的な仕組みで果たしているかという問題に帰着する。
本プロジェクトでは、日本企業数社の人事データを用い、日本企業の内部労働市場が、合理的企業行動を前提とする理論と整合的になっているか、非流動的な労働市場を持つ日本経済において内部労働市場の働きが欧米企業と異なるか、制度的要因が人的資源配分や価格付けにどのような影響をもたらしているか、組織内人材配置の変化がイノベーション活動にどのような影響を与えているかなどの問題に取り組む。